Interviews





2019

'リンスと日本 4EVER IN MY LIFE' ('Prince & Japan', Japanese language, Shinko Music, Tokyo)
about early days of Japanese Official Prince Fan Club as I founded it in the '80

2014

'THE ARTAUD BEATS Interview' in オー ル・アバウト・チェンバー・ロック&アヴァンギャルド・ ミュージック Rock in Oppositionとその周辺マー キー/星雲社、インタビュワー:坂本理
EURO ROCK PRESS Vol.54 (20128月発行)よ り、一部修正再録

'THE ARTAUD BEATS Interview' in All about Chamber Rock & Avant-garde Music: Rock in Opposition and its periphery, pp45-48, interviewed by Osamu Sakamoto, Japanese language, Marquee, Originally published in EURO ROCK PRESS Vol.54 (Aug 2012), republished here with some amendments

2013

Statement Heels liner notes, interviewed by Atsushi Asano, DiskUnion, Japanese language 「ス テートメント・ヒールズ インタビュース テートメント・ヒールズ日本ヴァージョンCD(ディスクユニオン、完売)のライナー ノーツに掲載されたインタビュー、インタビュワー浅野淳。主に曲目について。
About the tracks in the CD. This interview and liner notes were added when Statement Heels Japanese edition was released from DiskUnion in 2013 (sold out).

2012

'Yumi Hara Cawkwell Interview' and 'THE ARTAUD BEATS Interview' in EURO ROCK PRESS Vol.54, interviewed by Osamu Sakamoto, Japanese language, Marquee

2011 Yumi Hara Cawkwell interview by Akira Toshimori, Japanese language, in JASMIM (The Japanese Association for the Study of Musical IMprovisation) news letter 0030 (11 Feb 2011) Part 1, Part 2, Part3 
2011

Yumi Hara Cawkwell interview by Keishiro Maki, English language, in ProgArchives
about Mammal Machine, Dune by HUMI (with Hugh Hopper) and my thoughts on creation

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「ステートメント・ヒールズ」日本 ヴァージョンCD(ディスクユニオン、完売)の ライナーノーツに掲載されたインタビュー、インタビュワー浅野淳

「ユ ミ・ハラ・コークウェル Yumi Hara Cawkwell (key, vo)はロンドン在住の日本人ミュージシャン」というのは、彼女自身のブログ(http://yumihara.exblog.jp/i10/) 掲載のプロフィールの冒頭である。大学では医学部に進み、精神科医として勤務後、イギリスに渡り、音楽大学で作曲、 即興音楽、ピアノのパフォーマンスと、レコーディング、プロダクション、民族音楽などを学び、現代音楽の作曲家/即 興演奏家としての活動を始めるという、異色の経歴の持ち主である。現代音楽、プログレッシヴ・ロック、そして即興 (=インプロヴィゼーション)が、違和感無く共存しているというのが、ユミ・ハラ・コークウェル(*以降ユミさんと 親しみを込めて表記)の音楽の特徴だと言えるだろう。

  デヴィッド・クロス(元キング・クリムゾン)、スティーヴ・ハウ(イエス他)、故ヒュー・ホッパー(元ソフト・マ シーン)、ジェフ・リー(元ヘンリー・カウ)、チャールズ・ヘイワード、フランク・チキンズ、ピアノ・サーカス、ス ミス・カルテット、吉田達也、ホッピー神山、坂田明、梅津和時、佐藤行衛、鬼怒無月、ナスノミツル等々、王道プログ レからカンタベリー、チェンバー/アヴァン・ロック系に現代 音楽、ジャズ等々と、多彩なジャンルをまたがる錚々たるメンツを(共演者/コラボレイターとして)繋ぐのが、ユミさ んであるというのはやはり驚くべき事実であろうし、彼女が今後もプログレ/アヴァンギャルド/即興等において、 キー・パーソンとして注目すべき存在であることは、お分かりいただけることと思う。

  中でも、宮崎りえ、タバタミツル、渡邊靖之との轟音ジャーマン系インプロ・バンド「マンマル・マシーン」と、元ヘン リー・カウのクリス・カトラー、ジョン・グリーヴス、ジェフ・リー、3人との「アルトー・ビーツ」という2つのバン ドは、彼女が近年その活動に大きく力を入れているので、是非、生のライヴに接してその音楽を体感していただきたい。

  加えて毎年、複数回来日して、ソロから、様々な音楽家達との共演、プログレ・カヴァー等といった多彩なライヴ活動も バンド活動と並行して行い、そして、ヴォーカル・ワークショップや、プログレに基づく即興演奏(*注:吉田達也と ホッピー神山の許可をもらってインプログレと呼んでいる)という、他に類を見ないワークショップをも開催と、パワフ ルに活動を繰り広げているので、今後の活動も是非チェックしていただきたい。


* ディスコグラフィー

 DuneHUMI [ヒュー・ホッパー&ユミ・ハラ・コークウェル]2008,  MOONJUNE)

 Upstreamジェ フ・リー&ユミ・ハラ(2009,  MOONJUNE

 Dream of the Gryllidae(こおろぎの夢)」ユミ・ハラ&トニー・ロウ(2010,  DLリ リース)

 「密儀」マ ンマル・マシーン(2010,  Captain Trip Records)

 「ライド・ ア・ホワイト・ラビット」 ユミ・ハラ・コークウェル&佐藤行衛(2010, KOOTOWN)

  「ステートメント・ヒールズ」 ユミ・ハラ・コークウェル featuring 吉田達也 (2011)*本作

  本作については、この国内盤リリースを機にユミさんに存分に語っていただいたので、読み込んでいただきたいと思う。


ア ルバム「Statement Heels」について

Q: このアルバムは、初のソロ・アルバムということになると思うのですが、制作/リリースの切っ掛けや動機はどのような ものだったのでしょうか?

ま た、吉田達也さんをゲストに大々的にフィーチャリングすることになった経緯についても教えてください。

Yumi: 私は現代音楽の作曲家としての活動が長かったので、演奏される曲はけっこうたくさんあるのですが、現代音楽の演奏家 で宅録する人って少ないみたいだし、なかなかレコーディングってされないものなのです。そうしているうちにここ数 年、自分で演奏活動やレコーディングをする機会が増えたので、 この際自分でやるか、と思いたったのがソロアルバム制作の動機。

で もそのままではなんだし、ドラムスを入れて、ものによってはバンド形態のプログレにしちゃおうと思って、吉田達也さ んに参加を依頼。最初は他の楽器もたくさんの人に依頼しようかと思ってたんですけど、ピアノ2台 の曲なんかは、ピアノ2台ならではの良さを生かしておきたく なって、結局他の楽器は入れませんでした。他の音色が必要なときは私がデジタルシンセの音を作りこんで、キーボード で弾いてしまいました。

  吉田達也さんと知り合ったのは、故ヒュー・ホッパーの紹介で。

ヒュー は以前故エルトン・ディーンと、ホッピー神山さんと、吉田さんで「ソフト・マウンテン」名義で日本でライブとレコー ディングをしていたのです。それで、2008年に私とヒュー のデュオHUMIで日本ツアーを計画していた時、ホッピーさんと吉田さんと4人 で「ヨッシーHUMI山」としてライブをする予定だったのです。ちなみにこのユニット名は近江八幡のサケデリックス ペース酒游舘の西村さんが「字面はウザく、発音はやさしく」というコンセプトで命名してくれました。しかし来日直前 にヒューは病に倒れ、HUMIのツアーは幻となってしまいましたが、HUMIのCD「Dune」 をリリースした MOONJUNEのレーベルオーナー、レオナルドの強いすすめと、いくつかの会場がヒューが来れなくてもキャンセルしないでいてくれたこともあって、私がひとりでツアーを 決行しました。その時ホッピーさんと吉田さんは、江古田のCafe FLYING TEAPOTで私と3人で 演奏してくれたんです。これが現在も続いている「ヨッシーYUMI山」の起源です。この時『EURO-ROCK PRESS』も取材をキャンセルしないで来てくれました。日本で私のことなんかまだ誰も知らない 頃の話です。この時私を信じて、ヒューのネームバリューなしでも後押ししてくれた日本の皆さん、聴きにきてくれたお 客さん、共演してくれたミュージシャンの皆さんがいなかったら、今の私はありませんでした。

Q: 現代音楽として書かれた曲の録音と共に、即興演奏(1012曲目:ラスト3曲)収 録されています。録音作業の進行や過程はどのようなものだったのでしょう?

Y: 私はたいていのレコーディングはロンドンの自宅でしてしまうのですが(ヒュー・ホッパーとのデュオHUMIもジェ フ・リーとのデュオ、佐藤行衛とのデュオもみんな自宅録音です)スペースの関係上ドラムキットの録音はできないの で、最初、東京でレコーディング・セッションするつもりでスタジオ予約入れていたのです。そしたらちょうどその頃吉 田さんが自宅録音システムを導入して、最初依頼していたトラックは全部自宅で録音して送ってくれちゃったんです。ご 興味のある方のために細かく言いますと、まず、私が楽譜とMIDIヴァージョンのガイドトラックをEメールや大容量 転送サービスを使って吉田さんに送付。それから吉田さんが録音したドラムトラックのオーディオファイルを同様に私に 送付、それを私のコンピューターに入れて作業、という手順です。

そ れで、最初予定していた作曲作品のレコーディングセッションはしなくてよくなっちゃったんですけど、予約したスタジ オのキャンセル料が高かったの で、もったいないから吉田さんとインプロ・セッションを録音したのです。その時のレコーディングの一部も今回のCD に収録したわけです。

こ れらのレコーディングが行われたのが2009年夏のことなの ですが、私、それからしばらくこのレコーディング放置してたんです…。他の楽器を入れるべきかどうかとか、生ピアノ のレコーディングをどこでやるか、などなかなか決心つかなくて。2010年 にはマンマル・マシーンとユミ&行衛のCDリリースもあって忙しかったし。でも、このままじゃいけない、と思ってい た矢先、私の勤務先のイースト・ロンドン大学に、グランドピアノが寄贈されたんです。私、 もう何年も大学に「グランド買ってくれ、大学の音楽コースにグランドがないなんて恥ずかしい」ってお願いしてたんで すけど、スペースがないだのなんだの で、決して予算がおりなかったんです。ところが、あるロンドン在住のトルコ系の不動産業者のお金持ちがロンドンを引き払うので、自宅でインテリアと化していたグランドを、 教育機関に寄付したい、という話があったのです。それで、大学のスタジオマネージャーががんばってくれて、突然ス ペースがあることになって(笑)念願のグランドがやって来たんです。それで私はグランド録音し放題になって、めでた くピアノパートの録音が完成。最後にヴォーカルやその他のシンセ音を自宅で録音しました。

そ うそう、インプロ曲の吉田さんのヴォーカルは、吉田さんがあとで自宅録音して送ってくれたものです。吉田さんはスタ ジオ・セッションのとき風邪気味で、しかも翌日からツアーだということで、大事をとって歌わず、あとでオーヴァーダ ビングしてくれたんです。私の歌はスタジオセッションの時録音した ものと、吉田さんのヴォーカルが届いてからそのまたあとでオーヴァーダビングしたものとがあります。

Q: 元々ユミさんの手掛ける現代音楽自体が、すべてでは無いにせよ、チェンバー・ロック的だったり、プログレ的だという ことはあると思うのですが…。

Y: そうですね、もう、プログレを現代音楽演奏家に強要するみたいな曲もありますからねえ(笑)。 ハープシコードとプリペアド・ピアノの「Luminous(ル ミナス)」って曲なんか、モロそうですし、2枚目のソロ・アルバムに収録予定の「Hibernal(ハ イバーナル)」というパイプオルガンのために書いた組曲もそうですね。


.Statement Heels/ステートメント・ヒールズ」

Q: それでは、ここからは各曲について個別にお訊きしていきます。

  アルバム冒頭収録の表題曲は個人的にお気に入りです。アルバム・タイトルにもなっている題名の由来や、ジャケット写 真のエピソードなどありましたら…。

Y: これはピアノ・サーカス(英国の6台ピアノの現代音楽アンサンブル)のデヴィッド・アップルトンと元ピアノ・サーカ スのケイト・ライダーの2台ピアノ・デュオの委嘱で書いた組 曲「That is SO a Good Look」 の中の1曲。「That is SO a Good Look」は2006年 の英国作曲家賞最終候補になりました。

こ の組曲の中のタイトルはすべてファッション雑誌で使われる言葉ばかりです。「Statement Heels」とは、「主張するハイヒール」ぐらいの意味かしらん。ただのハイヒールじゃなくて、 その1足が着こなしを変えてしまうようなとっておきのハイヒール。それで、CDジャケット用に手持ちのハイヒールを いくつか履いて写真を撮って、ジャケットデザインのどるたんさんに送ったら、彼が選んだのはかかとにディアマンテの ついた、足首をリボンで飾る真っ赤なハイヒールの写真。ちなみにCDジャ ケットに使った写真は全部私が自分で撮ったものです。

こ の曲は2台ピアノ1人2役の多重録音しました。途中でピアノ3台分になるところもありますが、それは中間のドラム・ソロとかけあ いになるところのピアノのインプロとともにレコーディングの最中に考えついたもので、オリジナルにはありません。

イ エスの「The Fish」にならった4分 の7拍子のリフをベースにCリ ディアンモードでえんえんと続く曲かと思いきや、ピアノの低音が途中で入ってきて意外な展開になる。最後の最後でリ フも変化するあたりはラヴェルのボレロの構成に似ているかも…。曲調、芸風はもちろん全然違いますけど。

吉 田さんのドラムスはかゆいところに手が届く絶妙さ。

あ るアメリカ人イエス・ファンはこの曲のことを「北カリフォルニアの海岸を思わせる」と言っていました。

ち なみにクリス・スクワイアには、「The Fish」にな らった曲書きましたけど、って言ってあります。


.The Shape du Jour/シェイプ・ドュ・ジュール」

Q: 前曲「Statement Heels」と共に組曲「That is SO a Good Look」からの曲ですが、ピアノ の内部奏法によるケルティック・ ハープ等を思わせるコードのつま弾きと、もう1台のピアノによる、間を活かしたポツポツと弾かれる旋律の組み合わせ が印象的です。「Statement Heels」との共通 点も感じられます。

Y: この曲のピアノ内部奏法は、ELPの「石をとれ(Take a Pebble)」 のイントロでああいう音がするでしょう、あれです。ピアノというのは鍵を押さえ た瞬間にダンパーといって、ふだんは弦を振動させないように常に弦に触れているものが外れるようになっていて、その 状態でハンマーが弦を叩くので音がするという、いってみればダブル・アクションのシステムになっているのですが、こ の場合はダンパーだけは外れるんだけど、ハンマーは弦を叩かない程度に鍵を静かに押さえて、そうすると鍵を押さえて いない弦はダンパーで振動しないようになっていますよね、その状態で弦の上を真横に手でギターのコードを弾くように すべらせるのです。そうすると、すべての弦が弾かれてしまいますが、ダンパーが外れている弦の音だけが響くので、こ のように狙った音だけを爪弾いているように聴こえるのです。実際は全ての弦にさわってるんですけど。それであの独特 なうねりのような、ピッチがはっきりしない音が、はっきりしている音の周りに少しだけ聞こえるのです。音が鳴らない ように鍵を押さ えるのは非常に難しく、専門的なテクです。私はジョージ・クラムという内部奏法を多用するアメリカの作曲家が大好き で、音楽大学生時代にだいぶ弾きました。作曲専攻になってからは、クラムの方法に倣って、この曲のような内部奏法を とりいれた曲をたくさん書きました。今でも即興演奏でこのような弾き方をすることがよくあります、会場が許してくれ る限りにおいて、ですが(笑)。この曲の曲想は意識的にエリック・サティにならっています、彼の曲に「梨の形をした3つの小品」という連弾曲があって、その、「形」という言葉がタイト ルに共通するのと、半分フランス語になってるところから、サティ風にしよう、と思いました。


3. 「Walk on the Middle of the Road/ 災後の子守唄」

Q: こちらの音世界は自分的には意表を突かれた感じでした。この曲での、ユミさんの弾かれたkbdで のベースでは、オクターヴと手数の多さが併用されているのが、とても面白い効果になっていると思います。

Y: そうそう、今にして思うと、この曲ってクリス・スクワイアのソロ・アルバム(「Fish Out of Water」)の音世界なんですよね。エレピとストリングス。で、ギターレス。ブ ルーフォードばりの吉田さんドラム。和声もすごくスクワイア的。この曲を録音する直前にやったヴォーカル・ワーク ショップ(*注:ユミさんが東京でやっている英語でロックを歌うワークショップ)で「Hold Out Your Hand」をやったので休憩時間に運営担当のMEWさ んが「Fish Out of Water」ずっとかけてた の、なんか、あれが頭に残ってたんでしょうね。それでいて、ベース音はぜんぜんスクワイアじゃないんですよね。

手 数は普段の私はどっちかというと少ない方ですけど、 ほんとのベースの人だったらどう弾くかな、って想像しながらキーボード弾いたらああなっちゃった。あと、吉田さんの ドラム・トラックの方が先にあったので、それにバッチリ合わせてみたりもしました。

Q: 後半の盛り上がりはプログレ以外の何者でも無しとでも言いましょうか(笑)、 歌詞が考えさせられるものでありながら、ドラマチックさと聴き易さが共存していて、深刻さを突き抜けた心地良さを感じたりもします。

Y: 実はこれは、最初全然違う曲で、吉田さんのドラムスは、「Sense of Homogeneity」と同じく合唱組曲「 Fortean Songs」からの1曲 の楽譜とガイドトラックにつけられたものだったんです。私は以前歌詞のインプロができなかった頃、よく日本の子守唄 の歌詞を使ったインプロをしていました。日本の子守唄には母親が愛情をこめて赤ちゃんを寝かしつけるものだけではな く、自らもまだ子供であった、子守の少女たちの労働歌、恨み歌、風刺歌であったものがたくさんあるのに興味と共感を もったからなのです。自分の存在の小ささをいやがおうにも思いしらされる、権力者や金持ちたちの理不尽さに対するや り場のない怒り、力のない者どうしの足の引っ張り合いに対するやりきれなさ、そうした子守唄の要素を継承した形で原 発震災を歌いたいと思いました。

私 には世の中を変える力も発信力もなんにもありません。それどころか、自分の家族でさえも、現在の危機をわからせるこ とすらできない。201112月 に東京の姪に赤ちゃんが生まれました。どうしたらできるだけ危険を避けることができるか、私には山ほど知識の蓄積が あるのですが、その知識を生かしてもらう術がない。よかれと思って話をすればするほどいやがられるだけのことなので す。そんな私ができることは、どこにも逃げていくことができぬ子らに、せめて、側溝や雨どいの下、藪や繁みは避け て、道の真ん中歩けよ、としか言ってあげることしかできないのです。それしかできない、それがやりきれなさというも のなのです。

「雲 の通い路」とは、古今集の中の「天つ風雲の通ひ路吹きとぢよ」からの言葉で、もとは「雲の中の天人が往来するという 通路」の意味ですが、ここでは放射性物質の雲が通ったルートのつもりで、風が運び、雨や雪がそれを地上にもたらすの で、「風の通い路」「雨の通い路」「雪の通い路」と続けました。 プロモ・ビデオ( http://www.youtube.com/watch?v=KI7muC1Wa4E )では、このシーンに群馬大学の早川先生が作成した放射性物質汚染ルートの地図( http://gunma.zamurai.jp/pub/2011/09decJG.jpg )を使っています。

こ の頃はあんまりみんなゆっくり考えてくれないから、もっとストレートな反原発の歌の方がいいのかもしれないけれど も、やっぱりそこはプログレだし、「考えさせられる」、と言われて、これでよかったんだ、って思います。

ジャ ケット・デザインのどるたんさんはすごいわかってくれて。表ジャケの右下に始祖鳥の化石があるでしょ。で、左下は放 射線管理区域マークがかすれてるの。始祖鳥は曲のタイトルのひとつでもあるんですけど、それをかすれた放射線管理区 域マークと並べてくれたのはほんと彼の天才です。私のアイデアじゃないの。映画の「100,000年 後の安全」みたいでしょう。


.Cosmos Massive No.901/コスモス・マッシヴ 第901番」

Q: こちらも個人的に大のお気に入り曲なんですが、バルトーク関連のコンサートのために書かれた曲とお聞きしました が…。

Y: デヴィッド・アップルトンのバルトークをテーマにしたプロジェクトのために書いたもので、なんらかの意味でバルトー クに関係した短い曲ならなんでもいい、といわれて、私にとってのバルトークはとにかく変拍子ですから、そこから作曲 作業に入りました。「コスモス・マッシヴ」というタイトルはもちろんバルトークの「ミクロコスモス」、それからそれ に因んだジョージ・クラムの「マクロコスモス」にさらに因んで。901番 というのはバルトークのミクロコスモスが全部番号がついているので、なにか番号をつけようと思って、イエスの90125の最初の3ケ タからいただきました。番号が大きい方が景気がいいのでそうしたんですけど、1番 から900番はまだありません。

実 はプログレ本格回帰はこの曲を依頼されたことからはじまったんですよね。

バ ルトークと言えば変拍子。

変 拍子といえばプログレ(もちろん極論ですが、笑)。

で、 変拍子研究の一環として、自分が今までに聴いてきたプログレを改めて聴きなおしたんです。そしたら変拍子に限らず、 昔よくわからないで聴いていたことがわかったり、聴こえていなかったことが聴こえてきたりで、改めてプログレってす ごいなあ、と。

ちょ うどその頃と前後してプログレ、カンタベリー系の人々と出会って自分で演奏する機会が増えるようになったんですけ ど、あれだけ現代音楽の演奏家のために作曲してきてはいても、自分の演奏はロックだったんですね。それがわかってま すますプログレ回帰しました。

Q: 吉田さんのドラムがバルトーク由来という感じの激しい変拍子に入って、かなり(ユニヴェル・ゼロ等に代表される、い わゆる)チェ ンバー・ ロック色が濃い演奏になってると思います。これに加えて室内楽+ベース&ドラムス編成にすれば、 完璧にチェンバー・ロックという感じですね。

Y: そうですね、

現 代音楽でもああいう感じのグループはいろいろあって、この辺はオーバーラップする領域ですもんね。

で も現代音楽のグループだといくらドラムスとベースがいても絶対ロックにならないんですよ、現代音楽に聞こえるので す。面白いもんです。たぶん、アクセントの場所や微妙な音の長短、音色などに対する美意識が違うのでしょうね。それ から、クラシックでは拍子が伸び縮みしたり、フレーズとフレーズの間に一息入れたりするのが普通、というか推奨され ているので、例えば15拍子とか16拍 子とかになると、もうその差がはっきりわからなくなってくるというようなことがあったり。ロックの人ならばきっちり15151616で しょう。


.Baby Doll/ ベイビー・ドール」

.The Milky Way/ 天の川」

Q: 「Baby Doll」は、そのリズムの間合いとアクセント がとても面白く感じられて、こちらも個人的お気に入り曲です。楽譜を拝見すると、とてもトリッキーな構成でもありま す。

  次の静けさと間が印象的な6曲目「Milky Way」と共 に、元はトランペットとピアノのための曲とのことですが、今回どのように変えられたのでしょうか?

Y: オリジナルにはノイズの分量の多いトランペット・パートがついていたのですが、当時の作曲の先生(リアン・サミュエ ル)に、「なんだかトランペットとピアノっていうよりはピアノとトランペットって感じ」と言われたことを思い出し、 思い切ってトランペット・パートはすっかり取っ払ってしまいました。

  この組曲のタイトルには、ほとんどすべてに香水の名前を付けました。

Baby Doll」は、おもちゃ箱からおしゃまでおしゃれなお人形 が飛び出してきたイメージで、少しぎくしゃくしたリズムとおどけたメロディラインが特徴です。

  次の「The Milky Way」もトランペット・パート は取ってしまったことによってかえって夜空らしさが出ました。ペダルを踏み込んだまま、高音部だけでピアノを弾いて いま す。ペダルを踏み込むことによって全ての弦のダンパーが外れ、ワ~ンと共振するので、リバーブを深くかけたような効 果が出ています。


.Fortitude/ フォーティチュード」 (不屈のこころ)

Q: このパイプ・オルガン音と合唱からなる曲は、美しい中に、良い意味でメロディにポップさが感じられます。Youtubeに アップされているプロモ映像( http://www.youtube.com/watch?v=ENNgpTNCv1U )ではご自身が女学生4人に扮装されたり、水樹和佳さんの漫画が出てきますね。

Y: はい、この曲の歌詞は水樹和佳さんの漫画「雪のひとひらに」にインスパイアされたもので、私は観音様のような女性仏 性を感じ、それをイメージしてみました。大いなるものの内在化によって人は強くなれるということでもありますが、つ らいときにはがんばらず助けを求めてよいということでもあります。

曲 の方はもともと今はSAMSound and Music) に統廃合されてしまったspnmと いう英国現代音楽協会と、セントラル・セント・マーティンズという有名なデザインスクールのコラボで卒業制作の ファッションショーのための音楽として書き、これも有名な弦楽四重奏のスミス・カルテットが録音してくれたのです が、手違いから実際のショーには使われずお蔵入りになっていたもの。

今 回は「おちゃめでお行儀の良いミッション系女学校のお嬢さんたちがチャペルで一生懸命歌っている」感じの合唱曲にし てみました。

  これは本当は最大6パートで、合唱感を出すために、20回ぐらい多重録音しているんです。もちろん、一部だけやり直しと か含めれば30回以上です。私のコンピューターは音のほうは それだけやっても大丈夫なんですけど、映像の方は4人分が限 界で、20人分の自分は画面に取り込めませんでした(笑)。 もうひとつの合唱曲「Sense of Homogeneity」 は最大7パートで、30回 以上の多重録音をしています。

  上述のように「Fortitude」はもともと弦楽四重奏曲 で(だから20119月 に長久手文化の家で演奏したときは弦四バックに歌ったわけですが)、スティーヴ・ハウが それを気に入ってくれて、このメロディ弾きたいって言ってくれて、実は彼の弾いたレコーディングがあるのです。目下お蔵入り中ですけど。

Q: 弦楽四重奏曲が歌になった切っ掛けは?

Y 90年代後半にロンドンでBonobos Arkというマンスリー・ライヴ・シリーズをやっていたのですけ れど、その時にこの曲を自分で歌おうと思って。


.Farouche/ ファルーシュ」

Q: こちらは、独奏者によって片手ずつで弾かれる、2台のトイピアノのための曲が元になっているとのことですが、ゆった りとしたドラムスと、挿入される様々な効果音がとても面白く感じられます。ユ ミさんに作曲を委嘱したケイト・ライダーさんによる演奏や、ユミさんご自身の録音のことなど、エピソードがありまし たら。

Y: ケイト・ライダーはアンティークのトイピアノのコレクションを持っていて、中には素晴らしく変わった音のするものが あるのです。いろいろ見せてもらって選んだ2台のために書い たのですが、今回の録音は、私のカワイのトイグランド1台 で、2台分を多重録音しました。左右に振り分け、EQを 変えて、2台 らしくしました。このカワイのトイグランドは、日本でトイピアノを演奏するプロのほとんどが使っているスタンダード なものなので、とってもスタンダードな音がします。ケイトのトイピアノは、鐘のように響く音がするのとかあるんです よ。

  バックに流れている音は、私が日本のあちこちで録音した自然音や街頭の音、お寺や参道での音を編集したもので、以前 よくソロ・ライブのバックに使っていたものです。そういえば今はこういうバッキング・トラックをライブに使わなくな りました。

  ちなみにこのタイトルも香水の名前からとりましたが、「内気な」とか、「人見知りする」とかいった意味と、「野生 の」「残忍な」とか「獰猛な」「猛烈な」とかいった意味の両方がある言葉です。


.Sense of Homogeneity/センス・オヴ・ホモジェナイティ」 (同質意識)

Q: こちらも合唱曲となってますが、ドラムスが入ると俄然プログレ色が強くなって聴いていて盛り上がります。

Y: ですよね~。この曲は合唱組曲「Fortean Songs」 からの曲。Forteanとは、アメリカの超常現象研究家Charles Fortを支持する人とか、そういう考えの流派とか いう意味ですね。Fortが書いた文章を歌詞に使っていま す。以前英国のTV番組にFortean TVというどっちかというとお笑い番組があって、それでそういうのがあるのを知ったんですが、こ の曲を書くとき、歌詞を探していて、宗教的なんだけど、特定の宗教じゃないのがいいなあ、しかも著作権が切れてるも の、と思ってネットで探していてたまたまみつけて、すごく気に入ったものです。

  オリジナルの合唱団によるライブ・レコーディングはあるのですが、アカペラ演奏なので、ドラムスと拍子をきっちり合 わせるのが難しいし、かといってもういっぺんちゃんとレコーディングするのに合唱団を頼むとなるといろいろと大変な ので、自分で多重録音しました。バスのパートなんか歌えるはずないんですけど、すごく小さな声でなんとか歌って、EQなどを大幅にいじくってなんとかしました。でも機械的なピッチシ フトやピッチの直しは一切してません。


10Archaeopteryx/始祖鳥」

Q: ジャケットにも載っている始祖鳥がタイトルになってますが、吉田さんとのライヴでもはや、お楽しみ&定番となってい る即興演奏+ヴォイスの応酬となっています。アルバムでは左右に振り分けられてますが、時折お二人の区別が付かなく なるハイ・トーン・ヴォイスも聴き所です。

Y: 「お楽しみ&定番となっている即興演奏+ヴォイスの応酬」とはまた嬉しいお言葉ですね~! 私は歌うインストルメン タリストと共演するのが大好きですから。

こ の曲は前述のスタジオ・レコーディングを基にしたもので、ドラムとピアノは録音したそのままなのと、私の声の一部も そのときの録音のままです。

吉 田さんのヴォーカルはあとから吉田さんが自宅で録音して送ってくれたもの。

そ のあと、私のヴォーカルをさらに追加しています。 この曲は左が吉田さん、右が私です。 吉田さんは例によって吉田語ですが、私はほとんど日本語ですよ~。「古事記」からの引用です。

タ イトルは、マンマル・マシーンのベーシスト、宮崎りえさんのご母堂、宮崎ツヤ子さんのモラ(パナマの刺繍)作品「ア ンモナイトは語る」にインスパイアされて(http://yumihara.exblog.jp/19207560/)。 アンモナイトの他、三葉虫や恐竜とともに始祖鳥が描かれていたのです。モラというのは伝統手芸でありますから、題材 にそういうものがとりあげられるとは、言って見れば友禅の振袖に、鶴のかわりに始祖鳥が描かれるようなもんです!恐 るべし!


11.Mikuratana/ミクラタナ」(御 倉板挙)

Q: 不吉な雰囲気のシンセとヴォイスの組み合わせが凄みを感じさせてくれる、即興的な要素を持ちながら、プログレ的な構 築性も同時に感じられる演奏だと思います。元の演奏から仕上げに際しての行程はどのようなものだったのでしょうか?

Y: この曲もインプロが基で、曲の骨組み、構成は録音時のままです。ストリングスの音と、ドラム、私のヴォーカルはセッ ションの時のものそのまま。あとで追加したのは吉田さんのヴォーカル、私のストリングス以外のシンセ音(マリンバや ベース音など)すべて。

私 と吉田さんのインプロは歌があることもあってか、わりあいと構成感のある演奏になりますので、初めてライブを聴いた 方などはよく、ある程度できている曲を演奏しているのだと思われるようですね。もちろんこの曲では追加したパートが さらに構築感をもたらしている可能性はあるでしょう。

タ イトルを漢字で書くと「御倉板挙」、イザナキからアマテラスに授けられた首飾りの名前です。このころ古事記を読んで いて、変な話ですが固有名詞 などがなんともエキゾチックに感じ、特にこの「ミクラタナ」というのが不思議な語感と思いました。吉田さんのヴォー カルが届いて他のトラックと合わせて聴いた時、最初は「Middle Earth」というタイトルがすぐ思い浮かんだのですが、それだとイメージを喚起しすぎなのでよ くないと思って、やはり神秘感のある「ミクラタナ」にしま した。


12.The Ebb Tide/引き潮」

Q: アルバム最後を締めくくるこの曲は、静かな始まりから、その後ゆったりとしたテンポに乗っての、民謡的な旋律や、そ こから外れる半音や微調音を交えた日本語の歌声が効果的な演奏になっていると思います。質問というよりも感想になっ てますが…(笑)。

Y: 「The Ebb Tide」は「引き潮」という意味で、こ れは最初から最後までインプロ一発録り、しかもレコーディング・セッションの最後に演奏したものです。私の歌の音程 などイマイチの部分があったり、また、非常に静かに演奏したため、録音レベルが低く、雑音などが沢山入っているので すが、それを考えに入れても、これは、そのままの状態で、最後のトラックとして収録することに決めました。

歌 詞はジェフ・リーとのデュオ「Upstream」でとりあげ た野口雨情の「磯原節」(Stone of the Beach) の中の一節、「潮は引き潮 まだ月ゃでない」を発展させたものですね、今思うと(笑)「磯原節」自体、著作権は切れ ていますので、問題はありません(笑) 。

Q: では、最後に現時点(注:2013年初頭)での今後の予定 は?

Y: ソロ・アルバム2作目の制作および、アルトー・ビーツ、それ に日本ベースのマンマル・マシーンの活動を引き続きがんばっていきたいと思っています。

浅 野 淳 with ユミ・ハラ・コークウェル






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